「漂流教室」や「まことちゃん」でお馴染みの楳図かずおさんの1巻完結漫画「赤んぼ少女」。生まれてから身体が大きくならず、また醜く怪物のような外見になってしまった少女が、妹として我が家に迎えられた美少女の事を執拗にいじめ続けるというホラー作品です。
連載は講談社からかつて発行されていた「少女フレンド」の1967年の30号〜39号に掲載され、本作は2008年に小学館より楳図かずおデビュー50周年記念企画“UMEZZ PERFECTION!”シリーズの第9弾として出版された物です。
あらすじ(物語序盤)
生まれた時から離ればなれとなっていた両親の元へ、晴れて引き取られることになった少女・葉子。孤独な施設での生活から一転、親と暮らせることに加え新居は瀟洒な洋館で、葉子は感激しきり。だが、手放しで歓待してくれた父とは違い、母は彼女を見るなり「タマミ」という別人の名を呼びかけて…?
生まれて初めて過ごす幸せな生活。しかしある日、葉子がいつもの様に自室のベッドで眠っていると、何やら苦しさを感じ目を覚ます。するとその葉子のベッドには、一見赤ちゃんのような見た目ながら、ザンバラ頭に牙のような鋭い歯と獣のような異様な右手を持つ「タマミ」が横たわっていた!
主な登場人物
見どころ おすすめポイント
悪魔の子「タマミ」の怖さと切なさ
一度読んだら脳裏から離れなくなるほど強烈なインパクトを残す、邪悪な赤ん坊のような見た目をした「タマミ」 本作は主人公の少女「葉子」が彼女の姉であるとされる「タマミ」から、火をつけた石油ランプを頭に乗せておんぶをさせられたり、腕をギロチンで切断されそうになる等、命の危険を感じるほど執拗なイジメに合うというストーリーなのですが、物語が後半に向かい、理解不能の邪悪なモンスターにしか思えなかった「タマミ」が何故そんな事をしているかの背景が見えてくるにつれ、読者はいつしか彼女に対して同情を感じずにはいられず、ラストの独白には涙さえ流す事になるのです… 何故彼女は葉子をここまでイジメ抜いたのか?
ただただ恐ろしい悪魔の子と思っていた「タマミ」にいつしか情が移り切なくなるなんて……
キレイな着物でおめかしをし、化粧台で化粧をする「タマミ」のシーン。読んだ人誰もがハイライトに挙げる名シーンでしょう…
恐怖マンガのパイオニア 楳図かずおの凄み
人間心理の怖さを誰よりも深く描く第一人者にして最高到達点
彼の作品の大きな特徴の一つにして私が好きな部分は、登場人物の心理描写のリアルさです。悪役も含め全く理解の出来ないモンスターではないのです。そこがリアルで理解できる部分があるからこそ、人間の持つ恐ろしさが真に迫っていて恐いのです。この作品も正にその部分の良さが前面に出たホラー作品でありながらも、ただ怖いだけではなく、読後に胸に何かを残す珠玉の人間ドラマなのです。
作者の楳図かずおは本作について「お化けの立場に立って物語を見ていった最初の作品」だと語っていますが、本作では異形の者が抱える普遍的な哀しみが描かれています。それが作品発表から50年以上経った現在でも全く古びない理由でしょう。
説明不要のホラー漫画の巨匠、楳図かずお。あなたは「楳図かずお」に対してどんなイメージを持っていますか? 私は恥ずかしながらしばらくの間、彼の事を半分タレントの「オモシロおじさん」としか見ていませんでした。幼少期、近所にあった児童館に置いてあった「まことちゃん」をペラペラとめくり、ろくに中身を読みさえせず、友達とそのインパクトのある絵を見てゲラゲラ笑っているだけでした。
がしかし、成長し古い時代のものを含め、様々な作家の作品に触れる中で出会ったのが本作「赤んぼ少女」でした。無知ゆえに完全に舐めて試しに読んでみたのですが、そのあまりの衝撃的な内容、面白さに一気に他の楳図作品を読み漁る事になったのです。
楳図作品の凄さを理解している方には「何を今さら」だと思います。でも、もし以前の私のように何となくのイメージで読んでこなかった方、クセの強い絵に何となく読まず嫌いしてきた方に是非おすすめしたいのが本作品なのです。
ただただ恐ろしい悪魔の子と思っていた「タマミ」にいつしか情が移り切なくなるなんて